恋口の切りかた
ええと……



やっぱり、夢か?



ふわりとした柔らかい袖に包み込まれて、俺は本気でそんなことを思って、

「エン……エン……エン……!」

俺を抱き締めたまま繰り返す留玖の声と温もりとで、麻痺していた脳味噌がようやく現実を認識し始めた。

「留……玖……?」

俺にすがりついている少女は小刻みに体を震わせていて、呟いた俺の顔を見つめる瞳からはぽろぽろと涙がこぼれ落ちていた。

「留玖──!」

我に返って、その体を強く抱き締めた。

留玖、留玖、留玖、……

しばらくの間、その名前しか頭には浮かばなかった。


それから、細い体を抱き締めたまま、

泣いている彼女と、
先刻、蜃蛟の伝九郎が寄越してきたぞっとする内容とを比べて、

「留玖、お前……」


──酷いことされなかったか?


その一言がどうしても訊けなくて、口をつぐんだ。

返ってくる答えが恐ろしかった。


「その着物は……?」

代わりに俺は、留玖を抱き締める腕の力を緩めて、体を少し離して、彼女の顔を見つめて
そんな質問をして、

「あ……えっと……これは……」

留玖がうつむいた。
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