恋口の切りかた
「それで、すぐに与一だと?」

隻眼の美丈夫は少し不思議そうに首を傾げて、まァなと円士郎が首肯した。

「他の奴が似たような真似してるのを前に見てたんでな。
そっちは顔まで隠してやがったせいで全く気づけなかったが、てめえの場合は顔さらしてたんだ、すぐに気づくぜ」


私は円士郎が誰のことを言っているのか考えて、

中間になりすまして屋敷にやってきた宗助のことかな、と思った。

でも、「全く気づけなかった」って……円士郎はあの時、宗助の顔も知らないのに一目で正体を見破っていたような気がするけれど。


「他の奴ならともかく、俺はこれでも昔から、鈴乃森与一の熱烈な客のつもりだぜ?」

「そいつは嬉しいね」


二人の会話を絵の中の世界のように感じていた私は、やっと我に返った。


「待って……待ってよ……!」


目の前の出来事に頭がついてゆかなくて、完全に置いてけぼりを食らった気分だった。


「本当に、与一さん……なの?」


これだけ一緒にいたのに、私は全然気づけなかった。


「だって、声も全く……」

「違ったかい? なら、これはどうだい?」

低い霧夜の声とは違う艶のある美声がその唇から飛び出して、私は目を見張った。

紛れもない鈴乃森与一の口調と声音だった。
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