恋口の切りかた
本来ならば、優れた観察眼を持つ隼人は、顔を見た瞬間に気づいていてもおかしくはなかったし、昔から与一をよく知る俺も、もっと早く気づけるはずだったが──

──どうして尼僧と相対している間に気づけなかったのかと思って、


仙太が挨拶に来た、という狒狒の正慶の言葉を思い出した。


遊水と知り合いだった。

つまり──遊水はこのことも知っていた、と考えられるのだ。


あの野郎……!

しれっとした金髪緑眼の男が、俺たちにかけた暗示にようやく思い至り、狒狒の尼僧がどうして義眼を頻繁に落として見せていたのかも理解できた。


「目の見える者が見えない演技をすることは可能でも、目の見えない者が見えるフリをするのは難しい」


無意識の底深くに刷り込まれたあの言葉と、

目の前の女には片目がない、
色の違う義眼は本物の目ではないとわかりやすい、

ということを強烈に意識させられていたせいとで、

俺と隼人の頭の中では、「両目が存在している」鈴乃森与一と眼前の女を同一人物だと繋げる思考が妨げられていたのだ。


見事に思考を操られてしまっていた。


つまり、鈴乃森与一の右目も義眼だったということになる。
それも正慶のポロポロ落ちる黄色い不良品のようなものではなく、精巧に作られた本物と見分けのつかない義眼だ。


舞台役者の人気女形の片目が義眼だなどと、普通は誰も考えないだろう。

このことに気づけたのは、ひとえに俺の芝居通っぷりと与一通っぷりの為せる技に違いないと、密かに得意になっていたりする俺である。
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