恋口の切りかた
与一の話によると、先代の鵺の大親分と共に闇鴉を抜けた者は二人。

一人は盗賊時代に鵺が女に生ませた実の息子の与一。
そしてもう一人が──


「あの盲目の白蚕糸さ」


と、与一は言った。


「盗賊時代の名は『付喪神の蚕糸』」


与一は俺の予想通りの二つ名を口にして、

「主に仲間内のイザコザやら、稼ぎとは関係ない面倒事を片づける殺しの仕事を受け持ってた男だ。闇の社会の更に闇の部分ってワケだ」

そう語った。


「円士郎様も味わったろ? 鋼糸術ってンだあれは。

こういった屋内や森の中なんかに、標的を誘い込んで殺すのさ。
予め見えないようにあの特殊な細い縄を張り巡らせておいて、精巧に計算し尽くされた動きで仕掛けを操る。

標的が刃物を持ってようが、切れない縄相手じゃァあの通り、だ」


どう考えてもまっとうな武芸ではないと思ったが──要は暗殺術の類かよ。

俺は首筋に残る縄の感触に、思わず座敷の中を見回しぞっとする。


「奴の目は──」

「正真正銘、盲目だぜ? 何にも見えてない盲人だよ」

与一の言葉を耳にして、改めて寒気を覚えた。


与一が言うには、元々、鵺の腹心だったのはこの白蚕糸ただ一人で、狒狒も虎も、そんな人間はこの世に存在していなかったのだそうだ。


「存在してたのはこの俺と俺の親父の先代の鵺。

俺の親父はね、ずっと変装の技を使って正体不明の鵺を演じてきたのサ。
俺が仕事を手伝えるようになってからは、俺も狒狒や虎に化けて腹心がいるように演じた」


そして一味を抜けてこの町で一家を興した後は鈴乃森座に潜み、先代の鵺が老人、与一が若い女や男の姿で人前に現れていたらしい。

「ん? 死んだてめえの親父ってことは、まさか先代の鵺の大親分ってのは──」

「今の座元に変わる前の、鈴乃森座の初代座元だねェ」


与一の口から放たれた衝撃的事実に、俺はあんぐりと口を開けた。
< 1,191 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop