恋口の切りかた

 【剣】

「これのこと」

円士郎がそう言って、唇を重ねてきて──


それは普通の口づけではなくて


唇の間から、彼が入り込んできて


「──知ってたか?」

唇を解放して、いたずらっぽい目つきで円士郎が私を見た。

「し……らない……」

私は火照った顔を円士郎に向けたままかろうじて答えた。

びっくりしたのと、恥ずかしさと、円士郎が残した初めての感覚とで、目が潤んで円士郎の顔がぼやけた。

「じゃ、俺が教えてやるよ」

円士郎の声が耳元で囁いて、

再び唇が重なった。


身分も、
つらい過去も、
何もかも忘れさせてくれるような

優しくて甘いしびれるような感覚に身を任せて、

気がついたら、
壁に背を預けて座った円士郎に抱き締められたまま、彼の胸に身を預けていた。


「留玖……」

円士郎が優しい声で私を呼んで、そっと頭をなでてくれる。

頭から頬、首筋に温かい彼の手が触れて

私は幸せで、

そのまま彼の腕の中で目を閉じた。
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