恋口の切りかた
恋仲になったあの日から、円士郎は私に凄く優しくしてくれて、
私は毎日どきどきして、夢みたいで、

許されなくても、今はこの夢が覚めないでほしいと祈った。


ただ一つ、最近少し気になっていることがあって──


それは、円士郎が回復してからというもの
道場の稽古でも一対一の二人きりの勝負でも、円士郎が私にまた一度も勝てなくなっているということだった。

理由はわかる。

円士郎は私のことをとても大切にしてくれていて、
絶対に怪我なんてしないように気をつけてくれていて、
だから──勝負で手加減しているのだ。

それは彼にとっては無意識にやっていることなのかもしれないけれど。

これは今に始まったことではなくて、たぶん円士郎が私のことを大切に思ってくれるようになってからずっとそうで──


このことは、私の剣術の伸びを止めた。


私の剣の腕は、円士郎と本気で競い合う中で磨かれてきたもので──今の円士郎との稽古は、私にとっては意味を成さないものとなり果ててしまった。


円士郎に思いを向けてもらって、幸せに包まれながらも

私の中では満たされない、飢えたような感覚が少しずつ増してきていて……


季節が冬へと移ろうとしているある夜、

私はこっそり屋敷を抜け出して、木刀を手に一人、城下を流れる河原へと向かった。


冴え冴えとした月が周囲を照らす明るい晩だった。


一人で稽古をするつもりで、河原に降りて


ふと、その人が河原に立っているのを見つけた。
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