恋口の切りかた
私は平伏するのも忘れてあんぐりと口を開けたまま、目の前に座る人物を見上げた。
「お殿様って──女の方だったんですか?」
混乱した頭で思わずそう言うと、ケラケラと男装の女の子は腹を抱えて笑い出した。
「留玖、何を馬鹿なことを言っておる」
馴染みのある声がかかって、
見ると父上が歩いてきて、横手に座るところだった。
どうして父上がここに……と考えて、父上はお殿様の守り役で、城中ではお殿様と一緒に会うこともあるだろうから心配するなと言われたことを思い出した。
「戦国の世ではあるまいし、この徳川の世に女城主などがおるわけがなかろう。
左馬允様はれっきとした男子だ」
「男の方──?」
私は耳を疑って、目の前の華奢な人物をまじまじと見つめた。
「お葉の方の仕業ですな。
そのような格好をされて留玖を惑わすとは、お戯れが過ぎますぞ」
父上が笑いながら言って、
「いや、すまぬ。お葉は私にこのようにおなごのような格好をさせるのが好きでな。
男の格好をしておる留玖殿に会うということで、今日は私も同じような格好で会いに行けと、別式女の格好をさせられた」
その人はそう言った。
確かに、声は細いとは言え男の人のもので、華奢でも引き締まった体つきや骨格は男の人に間違いなかった。
お葉の方──というのは、私と同じでお殿様の側室の女の人だけれど、
まさかお殿様に、こんな格好をさせるなんて……
そんなことを考えて、
私は、やっとハッとなった。
「も、申し訳ございません! お殿様に向かって、な……なんてご無礼を……」
平伏した私の頭の上からは「よい、よい。顔を上げよ」という笑い声が降ってきて、
「今日は、是非とも晴蔵の秘蔵っ子というそなたの剣の腕が見たくてな。
そなたの兄と立ち合ってもらうことにした」
そんな言葉が聞こえて、後ろに誰かが座る気配がして、
振り返った私は、声を上げそうになった。
「お殿様って──女の方だったんですか?」
混乱した頭で思わずそう言うと、ケラケラと男装の女の子は腹を抱えて笑い出した。
「留玖、何を馬鹿なことを言っておる」
馴染みのある声がかかって、
見ると父上が歩いてきて、横手に座るところだった。
どうして父上がここに……と考えて、父上はお殿様の守り役で、城中ではお殿様と一緒に会うこともあるだろうから心配するなと言われたことを思い出した。
「戦国の世ではあるまいし、この徳川の世に女城主などがおるわけがなかろう。
左馬允様はれっきとした男子だ」
「男の方──?」
私は耳を疑って、目の前の華奢な人物をまじまじと見つめた。
「お葉の方の仕業ですな。
そのような格好をされて留玖を惑わすとは、お戯れが過ぎますぞ」
父上が笑いながら言って、
「いや、すまぬ。お葉は私にこのようにおなごのような格好をさせるのが好きでな。
男の格好をしておる留玖殿に会うということで、今日は私も同じような格好で会いに行けと、別式女の格好をさせられた」
その人はそう言った。
確かに、声は細いとは言え男の人のもので、華奢でも引き締まった体つきや骨格は男の人に間違いなかった。
お葉の方──というのは、私と同じでお殿様の側室の女の人だけれど、
まさかお殿様に、こんな格好をさせるなんて……
そんなことを考えて、
私は、やっとハッとなった。
「も、申し訳ございません! お殿様に向かって、な……なんてご無礼を……」
平伏した私の頭の上からは「よい、よい。顔を上げよ」という笑い声が降ってきて、
「今日は、是非とも晴蔵の秘蔵っ子というそなたの剣の腕が見たくてな。
そなたの兄と立ち合ってもらうことにした」
そんな言葉が聞こえて、後ろに誰かが座る気配がして、
振り返った私は、声を上げそうになった。