恋口の切りかた
母上から、

お殿様に呼ばれてこういう場所に来たら、私の目の前にあるような一段高くなっている席にお殿様がちゃんと着いて、お声がかかって許しが出るまでは顔を上げてはならないと聞いていたのだけれど。

女中や別式女は、こういう場で顔を上げてこんな風に立ってうろうろすることはないと聞かされていたような……

あれ? 記憶違いかな?

それとも──


私は突っ立っている女の子におそるおそる声をかけた。

「あの、ひょっとしてここには、お殿様はお見えにならないのでしょうか」

私と同じか、少し上くらいの年齢に見える女の子は、「ん?」という顔をして同じように男装した私を見て、

くすっと、女の私も見とれるような綺麗な顔で笑って、とことこ歩いて私の前へと移動して──

「え!? そこは──」

あろうことか、無礼にもお殿様の席に座ってしまった。


私はびっくりした。

こんなことしたら──お手討ちになってしまうんじゃないかしらと思いながら息を止めていると、


「すまぬ、すまぬ。せっかく奥に上げたのに、目通りがこのように遅れるとは──晴蔵からは急がずとも良いとは聞かされておったが、結城家の息女を相手に全く面目が立たぬな。許せ」


綺麗な女の子の口からは、「まるでお殿様のような」そんな言葉が飛び出して──


「え?」

ぽかんとした私に、女の子はにやっと笑って、


「私が、そなたを召し上げた砂倉左馬允じゃ」


と、言った。
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