恋口の切りかた
冬馬は親父殿の顔に視線を走らせてから、

「宗助が目を覚ましたのです」と言った。

「兄上に毒を盛るよう風佳殿をそそのかした──おひさという女中は、夜叉之助の手の者です」

「なに──!?」

冬馬の話に俺は声を上げて、
青文が鋭く目を細めた。


「おひさが海野清十郎と繋がっていると聞いた宗助は、単身、海野家に潜入して中を探っていたようです。

宗助の話によると──おひさは海野家の中にかくまわれており、

それどころか海野の屋敷は今、盗賊の巣窟になっているとのこと」


冬馬が口にしたとんでもない内容に、

「そうか……!」

俺は納得した。

「どおりで──」

だから町を裏で取り仕切る鵺の与一ですら、城下に入り込んだ闇鴉の一味の潜伏場所を知らなかったのだ。

「海野家こそが、闇鴉の一味の盗人宿(ぬすっとやど)だったってことかよ」

俺は舌打ちした。

「考えやがるぜ」と、元盗賊の青文もボソッと普段の口調でそうこぼし、薄く笑って、

「武家屋敷の──しかも家老家の屋敷が盗人宿になっているなどと、まず誰も疑いませんからな」

と、家老の喋り方に戻って言った。


「宗助は、兄上の毒殺もまた盗賊一味が裏で糸を引いていたと突き止めた後、連中に見つかって捕らえられ、何とか逃げ出してきたと申しておりました」

冬馬はそう言った。


あの俺の暗殺すらも、闇鴉の一味の仕業だった──?


俺は、連中がただの盗賊一味と侮れない相手だと思い知って、

だとしても、
宗助ほどの者がどうして捕まるようなヘマをやらかしたのか──

その点には、やや首を捻った。


「これが何を意味するか、おわかりですか?」

冬馬は奥歯をぎりっと鳴らして、俺と親父殿を見た。
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