恋口の切りかた
冬馬は今にも泣き出しそうな顔でうつむいた。


「十年ぶりにあの男と再会して──初めは、それが生き別れた夜叉之助とは気がつきませんでした」


畳を睨むようにしながら、冬馬は言った。


「しかし二度目に会った時──姉上の縁談を賭けた勝負の後に、海野清十郎の稽古相手をして、

あの男が私にかけてきた言葉で──気づいたのです。

もっと早くに父上と兄上に打ち明けるべきでした。

そうすれば、このようなことには……!」


申し訳ありません! と、冬馬はまた畳に手を突いて頭を下げた。


「冬馬、顔を上げろ」

俺は静かに言った。

平伏していた冬馬が身を起こす。


「よくわかったぜ、納得だ。

暗殺と言い、謀反の濡れ衣と言い、

確かに、俺ではなく羅刹丸に結城家を継がせることがあの野郎の目的だとすると説明がつく」


俺は義弟の目を真っ直ぐ見つめた。


「だったら……なおさらだ。
結城家はお前が継ぐんだ、冬馬」


「な──」


冬馬が絶句して、


「何を仰います! 私の話を聞いていなかったのですか、兄上」


「聞いてたさ」


俺は微笑んだ。


「お前は奴の弟の『羅刹丸』じゃない。

俺の弟で──結城晴蔵の息子の『冬馬』だ」
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