恋口の切りかた
俺は親父殿の顔を見る。

「そうだろ? 親父」

親父殿もまた、微笑を浮かべて冬馬を見つめていた。

「冬馬。
十一年前、お前は自らの手で、その胸の八咫烏の彫り物を焼き潰して見せた。

その時から、お前は円士郎と同じ儂の息子だ」


冬馬が言葉を失ったように俺と親父殿を見て──頭を垂れ、肩を震わせた。


しばし落ちた沈黙の後、


「……私は果報者です」


冬馬はそう言って顔を上げ、涙に濡れた双眸に俺と親父殿を映した。


「やはり私の思いは変わりません……!
兄上、どうか私もご一緒させてください。

それこそが、兄上と父上、結城家に対する恩義に私が報いるただ一つの道でございます!」


その目には固い決意の色が宿っていて──


「馬鹿野郎! お前は……」


俺はまるで、あいつと──留玖と話しているような気分になる。


「お前らは何で……」


武家の生まれではないのに、俺の義弟と義妹は──


「私のこの命、あのとき兄上のために使うと誓ったはず……!

それにこれは、私の過去に対するけじめでもあるのです。

どうか──」


私もお連れください、と冬馬は俺を見据えた。


俺の言葉が入り込む余地のない、覚悟した武士の顔だった。
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