恋口の切りかた
親父殿と冬馬が帰った後、

「事を起こすなら──敵が事を起こした時だ。それまではこらえろよ」

刀を握りしめる俺に、青文は言い聞かせるようにそんな言葉を口にした。

「敵が事を起こした時? 奴らがまだ何か仕掛けてくるってのか?」

「ああ。冬馬様は、連中の目的をああ仰っていたが──甘いな」

青文は緑色の双眸を険しくした。

「結城家に対する復讐だけで終わらせる気などない。
奴らは──夜叉之助はもっと深い恨みを抱えていて、そしてもっと大胆だ」

どうやらこの男にはまた、俺たちには見えていないものが見えているらしい。


「さっき、冬馬には鬼之介に何を渡すように言ってたんだ?」

「ああ、あれはな。人形斎が残した図面だ」

「人形斎の図面だと!?」

俺は耳を疑って思わず声を上げた。

青文はぞっとするような笑みを浮かべて、

「俺が家族を謀殺した時の──天照とは別の、もう一つのカラクリだよ」

と言った。


俺は当時、焼死事件と共に騒がれた伊羽家の連続怪死事件を思い出した。

焼死とは別に、城下の竹林で変死体になって見つかった者がいる。


去年の事件では、天照と月読を用いた焼死しか起きていなかったが──


「それは──正体不明の化け物に食い殺されたと言われてる、あんたの兄貴を殺したカラクリってことか?」

「そうだ。竹林を住処にしていたあの人形斎の弟子は、化け物の仕業に模して使いたくても、こちらのほうは使えなかったようだがな」


確かに、竹林に潜む化け物の仕業と思しき死体が見つかっていたならば、俺たちも真っ先にあの竹林を調べていただろう。


「だが、あれも化け物の仕業などではない。れっきとした人の仕業だ。
それも、条件付きでしか使えない天照よりも遙かに実用的で戦力として有効な、な」
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