恋口の切りかた
「べ……別人だ!」

清十郎が、私が思ったのと同じ言葉を口にして、


「別人?」

青文が──いや、伊羽青文としてそこにいる見知らぬ男が、やはりボソボソとしたくぐもった喋り方で言った。

「それこそ何の根拠あってのことか」


「確かに」と、頷いたのは菊田水右衛門だった。

「別人にしては──この男の立ち居振る舞いも言葉も、これまで我々が目にしてきた伊羽殿そのもの」

周囲の侍たちもヒソヒソと、

「あの槍の動きや構えは……」

「伊羽様の無想流槍術のものじゃ」

などと囁き交わした。


私もわけがわからなかった。

確かにこの人の構えも、侍たちを追い払った時の槍の振るい方も、以前目にした青文のものと何も違わなかった。

だから、覆面の下には金髪の若者の素顔があると信じ込んでいたのに──


「さすがに一国の家老を、他人が演じて演じられるものではあるまい」

菊田はトロリとした眠たそうな目のままそう言って、

「ふむ。噂には聞いておったが、このような素顔では──確かに覆面で隠すも道理、道理」

少しだけ面白そうに、
それでも気怠そうに、唇の端を吊り上げた。



他人が演じて──?



その言葉に私は少し引っかかって、



「そうか……そういうことかよ……!」

そばで円士郎が、私たちにだけ聞こえるような小さな声で呟いた。
< 2,048 / 2,446 >

この作品をシェア

pagetop