恋口の切りかた
本当にこいつは、血も涙もない冷酷な盗賊だ。

俺はそう思った。


だが──


「兄上……」と、

俺の後ろで畳の上に転がったまま、
この期に及んでも、

もがくように冬馬は言った。


「夜叉之助もまた、哀れな人間なのです。
酷い親のせいで、愛情を知らずに育った……」


「そんなことが理由になるか!」

俺は夜叉之助から視線を外さぬまま怒鳴った。


「確かに俺は、恵まれた幼少時代を送った。
お前らの境遇を理解しようとしてもできねえだろうさ。

だがな、たとえ幼い頃に親から酷い仕打ちを受けても──苦しみながらも人の心を失わなかった奴らを知ってる」


障子の外で稲妻が光り、浮かび上がった夜叉之助の顔は冷笑を湛(たた)えていた。


「外に出ろ、夜叉之助」

三日月の形に歪んだ目で俺を眺めている男に、俺は言った。

「俺もてめえも二刀流だ。部屋の中じゃやりづれェだろ」

いいだろう、と夜叉之助が言って、部屋の障子を開け放った。
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