恋口の切りかた
どうやら俺たちがいたのは裏庭に面した部屋だったようで、

障子の向こうには雨に煙る庭木と塀、

そして
斬り合いにおあつらえ向きに、足下が平らに均された、開けた場所があった。


周囲にはこいつの手下の姿はない。

軒先の雨垂れの下をくぐって、俺と夜叉之助は庭へと降りて──


庭に降りたところで夜叉之助が足を止め、雷鳴を響かせる空を見上げた。


「雨の日は嫌いだ」

ぽつりと、盗賊の首領はそんなことを呟いて、降りしきる雨の中に立ったまま部屋の中を振り返った。

「なあ、羅刹丸。お前もそうだろ?」

夜叉之助は、部屋の中の冬馬に向かってそう言った。

「ろくな事がない。
はは、そう言えば、あの日も雨だったな」

俺は眉を寄せた。

あの日……?
何の話だ?

乾いた笑い声を立てる夜叉之助を、冬馬は暗い部屋の中からじっと睨むように見つめている。

夜叉之助の目が俺のほうを向いて、

「結城円士郎、貴様の父親の結城晴蔵に、俺とこいつの親が斬られた日だよ」

と、言った。


「なあ、羅刹丸。
あの日もこんな雨が降っていたな」


何を考えているのかわからない氷のような薄笑いを貼りつかせた顔で、夜叉之助は雨粒を落とす天を仰いだ。
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