恋口の切りかた
【剣】
遊水と別れて、屋敷を囲む塀に沿って庭を裏手のほうに曲がってすぐ、
「そう言えば、あの日も雨だったな」
聞き覚えのある冷たい声が耳に届いて、私は雨の中で足を止めた。
ここは屋敷の裏庭に当たる場所だろうか。
声のほうへ首を巡らせると、
庭木の奥に開けた場所があって、そこに二人の侍が立っていて──
エン……!
こちらに背を向けて立つ愛しい人の姿を認めて、涙がこみ上げた。
夢中で、彼のもとに走り寄ろうとして、
「結城円士郎、貴様の父親の結城晴蔵に、俺とこいつの親が斬られた日だよ」
円士郎の背中の向こうに立っていたもう一人の侍がそう言って、その人物の顔を見た途端、私は凍りついた。
海野清十郎──。
「なあ、羅刹丸。
あの日もこんな雨が降っていたな」
冷たい声でそう言う青年は、裏庭に面した部屋のそばに立って、部屋の中を見ている。
羅刹丸……?
誰か、中にいるの?
私は庭木の間を静かに歩いて、
障子が大きく開け放たれた部屋の中が見える場所まで移動して、
「冬馬──!」
畳の上に横たわった冬馬が目に飛び込んできて、声を上げた。
「留玖……!?」
円士郎が驚いた様子でこちらを振り返った。