恋口の切りかた
「なあ、羅刹丸」と、清十郎は冬馬のことをそう呼んだ。

「ラセツマル……?」

「そうさ。この闇鴉の夜叉之助の血を分けた実の弟だ」


実の弟──!?


私はびっくりして、血だらけの冬馬に視線を戻した。


別宅で円士郎たちが言っていたとおり、

この清十郎が夜叉之助という盗賊で、
白輝血の事件の時から見え隠れしていた盗賊「闇鴉」を率いる頭目だということは本当のようだ。

それにだって驚いたばかりなのに──


「姉上、申し訳ございません……」

部屋の中に倒れたままの冬馬と目が合って、彼が掠れた声を出した。


「私は大河家からの養子でもなければ、武家の生まれでもありません。

姉上と同じ……

……いえ、遙かに下賤なる──賊の父を持つ、身分卑しき出の子供です」


ククッと、清十郎が──闇鴉の夜叉之助が、喉を震わせて笑って私を見た。


「こいつの本当の名は羅刹丸。この夜叉之助の弟だ。

十一年前のこんな雨の日、結城晴蔵に斬り殺された先代の頭目──闇鴉の六郎太の子供だよ」


信じがたくて、
頭がついて行かなくて、

私は言葉を無くして立ち尽くした。
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