恋口の切りかた
ふと、夜叉之助が頭上を見上げた。

「雨は嫌いだ」

相変わらず氷みたいな目で、
何かを睨むように、
彼は天から落ちるしずくを見ていた。


いつだったか──
この目が、誰かに似ている気がした。


何かに怒っているような、冷たい炎がちろちろと燃えているような目。


この人と、
畳の上に倒れた冬馬とを、
私は代わる代わる眺めた。

そうか、と思った。


いつも雨を睨みつけていた冬馬。


「あの男は、雨の日はいつも機嫌が悪かった」


今、空を仰いでそう呟くこの人の目は──


冬馬の目と同じだったんだ……。


「あの男……?」

「闇鴉の六郎太だよ。俺と羅刹丸の実の父親さ」

聞き返した私に、夜叉之助は天を見上げたまま嘲るように笑ってそう答えた。
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