恋口の切りかた
「あいつは、機嫌が悪いとガキの俺たちに当たって、俺と羅刹丸はよく殴られた。

だから俺は雨の日が嫌いになった」


あいつ……。


夜叉之助の言葉は冷えきっていて、

実の父親と言いながら、その口振りはまるで他人の話をしているかのようだった。



ああ──

九月の雨のように体温を奪ってゆくその口調を聞いて、私は悲しくなる。


どうしてだろう。

この人はどうして、
出会ってからずっと、こんな風に話すのかな……。


「あいつにとって、ガキの俺たちはただの道具だった。

一味の仕事を手伝わされて、役に立てば褒められたが──ヘマをした時には、ボロボロになるまで殴られて蹴られた。

だから俺とこいつはいつも六郎太の機嫌を損ねないように、六郎太の顔色に怯えて生きてきた。

それが──十一年前、この国で何をやらかしたのか、あの男は当時の仲間もろとも武家の連中に徹底的に追いつめられて、挙げ句に若い侍に斬られて死んだ。

俺とこいつの目の前でね。それを見て──」


夜叉之助は、ぞっとするような瞳で口元を吊り上げた。


「俺は、清々したのさ。

俺たちを好き勝手に使ってくれた男から、これでようやく解放されたと喜んだ」


「それなら──冬馬と同じじゃねえかよ!」


円士郎が夜叉之助に向かって怒鳴った。


「理解できねえぞ……!
てめえは、なんでこんな真似をした!?

どうして冬馬と一緒に武家の養子にならなかった!?」
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