恋口の切りかた
りつ様はきれいな顔をゆがめて、苦々しい表情を作り、
私をまっすぐ見て真剣な声で言った。


「留玖殿も武家の女になったのなら、ようく覚えておきなんし。

ちょうどわっちが結城家に来たころ、
ここでもあわやという事件があったそうじゃがの。

何があっても、
時には主君の罪をかぶってでも、
お家のお取りつぶしだけは避けるよう気をつけるのが家臣の務め。

お家が改易となった家中(かちゅう)の者たちの末路は……それは悲惨なものでありんす」


りつ様は唇をきつくかんでいた。

私にはその重大さはよく理解できていなかったけれど、
りつ様の真剣さに気圧(けお)されて大きくうなずいた。


「わっちの郷里でも、仕えるお家がなくなり──

多くの者が職を失い浪人となって……わっちの家では──」


りつ様は、遠い昔を見るように、

視線を宙に泳がせた。


「父は自害して果て、母も次の日に後を追ってのどを突きんした……」


そう言って、りつ様はさびしそうに微笑んだ。

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