恋口の切りかた
一人になり、行くあてもないりつ様は、
女衒に連れられて江戸に上り──

吉原で遊女になったのだそうだ。


「もうお前は武家の息女ではない、ただの女郎だと言われてものう」

りつ様は自嘲するように言った。

「役に立たない気位ばかり高くて、
わっちは吉原での暮らしになかなかなじむことができず苦労した。

何よりいやだったのは名前じゃ。

吉原では皆、新しい名を付けられてその名で呼ばれる。

親からもらった大事な名があるのに、
こんな名前など自分のものではないと、ずいぶん泣きわめいた記憶がある」


それは──

私がこの家に来て、
今の名前をもらった時とはずいぶんと違うのだろうけれど……。

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