恋口の切りかた
「殿」

突然、海野喜左衛門は着物が汚れるのも構わずにぬかるんだ地面に手を突いて、殿に向かって頭を下げた。


「まんまと賊の策にはまって家中を危機に陥れたは、全てこの老いぼれの罪。

この死に損ないの腹をいくつ切っても足りませぬ」


「いや」と、殿は首を横に振った。


「それを申すならば、賊に城の奥深くまでの侵入を許し、あろうことか評定の場に出入りさせた評定役全員を始め──

その正体に気づけなかった家中の者全てに罪があることになろう」


殿は、いつも私に話しかけていた時のようなくだけた喋り方ではなく、
改まった、凛とした口調で言って、


「そしてそれはつまり、家中を束ねるこの私の罪ということじゃ」

「な──なにを仰せです!」


海野喜左衛門が焦った声を上げた。


ふう、と殿は嘆息して、

それから私と円士郎の方を向いた。


「それでも、先法御三家という身分でありながら、盗賊に陥れられて嫡男に謀反の疑いがかかるような事態を招いた結城家の失態は、捨て置けば家中の者への示しがつくまいな。

そうであろう、円士郎」
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