恋口の切りかた
行灯(あんどん)の、ボウとした優しい光に照らされて、りつ様はふふっと笑った。


「わっちの退屈な身の上話で、時間が経ってしまいんしたな。
許しておくんなんし」


女中は私に、夕餉(ゆうげ)の時間だから一度母屋にもどるようにと告げ、
りつ様にはいつものようにこちらにお運びしますと言った。


私は、りつ様をまじまじと見つめた。

りつ様は、だいだい色の明かりの中にふんわりと浮かび上がった幻のようだった。


「りつ様は、それで……」


失礼な質問かもしれない、と思った。
けれど私はどうしてもきかずにはいられなくて──

──たずねた。


「お幸せなのですか?」


いつか、漣太郎と交わした会話が脳裏をよぎった。


──好きな相手なら、妾にするっていう手がある。


あっさりとそう語った漣太郎の言葉が、
なぜか私の心の中にずっと引っかかっていた。

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