恋口の切りかた
「そんな……すでに、結城様はそう仰ったと申すのか──私はもう、用ずみということか……」

「えっ?」

私は聞き返した。


用ずみ?
……って、どういう意味だろう。


男はそのままヘナヘナと、襖の向こうで座りこんだ。


「ああ──こんな仕事、やはり引き受けるのではなかった……」


私は今度こそ、眉間にシワを作って考えこんでしまった。

仕事というのは、駆け落ちのこと……ではなさそうだけれど。


「しっかりしなんし」


へたりこんだ男に声をかけたのはりつ様だった。

「晴蔵様はお見捨てになどなりんせん。きっと……」

「あの」

私は割りこんだ。

何だか話が食い違っているような気がする。

「この人は、例の、二人も殺して逃げたっていう罪人なんじゃ……」


「二人……そうだ、私は二人斬った──」


うずくまったまま、男はかすれた声でそう答えた。

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