恋口の切りかた
ちょうど午後から風佳が来ることになっていて、

円士郎は結納を控えているというのに、許嫁の相手を放り出して早々に町に逃亡してしまった。


私も、風佳の顔を見るのが辛くて逃げ出したかったけれど

風佳にちゃんとお祝いを言わなくちゃと思って……、



しかし言えなかった。



午後になって屋敷を訪れた風佳は、目を真っ赤に泣き腫らしていて、

出迎えた私と──冬馬の顔を見るなり、
泣き崩れてしまったのだ。



「冬馬様、冬馬様──風佳は、
円士郎様のところにお嫁になど行きたくありません……!」



そう言って、冬馬の着物の袖にすがりついて泣く風佳を、冬馬が必死になだめている。


その二人の姿を見ていられなくて、

見ていてはいけない気がして、


私はそっと屋敷を抜け出して、町に出かけた。
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