恋口の切りかた
派手な兵五郎とは対照的に、真っ黒の墨染めに身を包んだ男で、
こちらも齢は兵五郎と同じくらいだろうか。

バサバサした散切り頭と
額から右頬に走る刀傷とが目を惹く男は、三白眼をぎらつかせて、

ひゃははは! と甲高い笑い声を上げた。

「今ここでやる気かァ!? ひはは、いいぜいいぜェ!」

「これこれ霧夜、てめえも落ち着きな」

兵五郎親分がたしなめるように言う。


「暗夜霧夜」と呼ばれている兵五郎の片腕である。


霧の夜と書いてキリヤ。本名ではないだろう。

連中の間ではその名の示すが如く、暗闇霧の夜のように何をしでかすか先が見えないと恐れられている狂犬だ。

あの散切り頭は番太(*)身分だったか、
着ている墨染め通りの破戒僧だったか忘れたが。


「こっちはたまたま通りがかっただけのことよ。
てめえらの仕業と言うならば──」


兵五郎は、蛇のような顔をニタリと歪ませて、筵の下の死骸を指さした。


「どうやったら、人間にそんな殺し方ができるのか
説明してからにしてもらおうじゃないかい」


ぐうっ、と言葉に詰まる銀治郎の子分たちに小馬鹿にしたような視線を浴びせ、

オラ、どいたどいた! と周囲を威嚇する取り巻きや霧夜たちに囲まれて、兵五郎はこちらに歩いてきて──

俺と遊水に気づいたか、
橋の上ですれ違い様ニヤッと笑って、立ち去っていった。



(*番太:処刑や取り締まりに携わった非人身分の者。散切り頭にするのが慣習)
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