恋口の切りかた
中に入ると
木戸銭を払わず、円士郎は慣れた足取りで真っ直ぐ楽屋に向かった。

私も時々円士郎にくっついて出入りしていたので、いつもの調子でついて行く。


鬼之介だけは、慣れない様子でキョトキョトと、本物の黒い隈取りの奥の目を動かしながら歩いていた。


「よォ、与一」

楽屋に顔を出した円士郎が呼びかけると、

ちょうど芝居が終わった直後だったようで、
芝居の衣装を身につけ化粧をしたままの役者が一人、こちらにやってきた。

どう見ても、美しいお姫様のような格好をした女性だけれど……。


「おや、円士郎様におつるぎ様じゃないか。今日も来てくれてたのかい?」


そんな風に話しかけてきたのは、ここの人気女形(おやま)で──



──つまり性別は男の役者だ。
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