恋口の切りかた
伊羽の件があるにせよ、俺たちの名目は奉行所の助役だ。
奉行所のほうでは事件についてどの程度つかんでいるのかも気にかかったし、
翌日、俺は隼人を伴って奉行所に顔を出した。
俺を待っていたのは、満面の笑みを作った町奉行の高津図書と、仏頂面を作った町方与力の神崎帯刀だった。
城中でのタカの一件がある隼人は、図書の顔を見るなり「げ」と小さく漏らして視線を逸らしていたが、図書は俺の横で気まずそうにしている隼人には構わず、
「やや、まさか円士郎様が御自ら助役として調査に加わって戴けるとは、百人力、やや、千人力でございます」
などと、俺のご機嫌を必死にとるような言葉を紡ぎ続けた。
神崎帯刀はしばらく渋柿を口に含んだような顔でそれを聞いていたが、ついに腹に据えかねた様子で「お言葉ではありますが」と、図書に向かって口を開いた。
「納得できかねます。この事件はそれがしに一任されてございます。
このような者どもの助役など必要ございませぬ」
怪事件の捜査って、こいつに一任されてたのかよ!
若い与力の言葉を聞いて、俺は内心吹き出しそうになるのを何とか堪えた。
以前会った時に同心たちから陰口を叩かれていたが、
成る程、こんな厄介な事件を体よく押しつけられるとは──この硬派な偉丈夫は、本当に奉行所では浮いた存在らしい。
ま、俺と隼人も城中での体裁上は神崎帯刀と全く同じ扱いなわけだが。
「このような者どもって……」
聞いていた隼人がボソッと呟いた。
「与力の分際で、御三家筆頭の結城家の御子息に対して無礼な物言いですよねえ、コレ」
隼人お得意の軽口だ。
神崎のこめかみがぴくっと痙攣した。
聞いていた図書が慌てた。
「そ、そうだぞ! 神崎! 無礼な口を利くでない!」
「これは失礼致しました」
さらにこめかみをひくつかせながら神崎が俺に頭を下げて、
「しかし御奉行はこの事件、それがしでは手に余るとそう仰せか」
鬼のような形相で町奉行を睨み据えた。
奉行所のほうでは事件についてどの程度つかんでいるのかも気にかかったし、
翌日、俺は隼人を伴って奉行所に顔を出した。
俺を待っていたのは、満面の笑みを作った町奉行の高津図書と、仏頂面を作った町方与力の神崎帯刀だった。
城中でのタカの一件がある隼人は、図書の顔を見るなり「げ」と小さく漏らして視線を逸らしていたが、図書は俺の横で気まずそうにしている隼人には構わず、
「やや、まさか円士郎様が御自ら助役として調査に加わって戴けるとは、百人力、やや、千人力でございます」
などと、俺のご機嫌を必死にとるような言葉を紡ぎ続けた。
神崎帯刀はしばらく渋柿を口に含んだような顔でそれを聞いていたが、ついに腹に据えかねた様子で「お言葉ではありますが」と、図書に向かって口を開いた。
「納得できかねます。この事件はそれがしに一任されてございます。
このような者どもの助役など必要ございませぬ」
怪事件の捜査って、こいつに一任されてたのかよ!
若い与力の言葉を聞いて、俺は内心吹き出しそうになるのを何とか堪えた。
以前会った時に同心たちから陰口を叩かれていたが、
成る程、こんな厄介な事件を体よく押しつけられるとは──この硬派な偉丈夫は、本当に奉行所では浮いた存在らしい。
ま、俺と隼人も城中での体裁上は神崎帯刀と全く同じ扱いなわけだが。
「このような者どもって……」
聞いていた隼人がボソッと呟いた。
「与力の分際で、御三家筆頭の結城家の御子息に対して無礼な物言いですよねえ、コレ」
隼人お得意の軽口だ。
神崎のこめかみがぴくっと痙攣した。
聞いていた図書が慌てた。
「そ、そうだぞ! 神崎! 無礼な口を利くでない!」
「これは失礼致しました」
さらにこめかみをひくつかせながら神崎が俺に頭を下げて、
「しかし御奉行はこの事件、それがしでは手に余るとそう仰せか」
鬼のような形相で町奉行を睨み据えた。