恋口の切りかた
鬼之介は、ごくりと喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
「その男は、お前がこの先この国の歴史にどう関わる人間かわからぬから、歴史的な重大な出来事や事件は教えてやれぬし、そのほうがお前のためだと言って──
ただ、知っていても何も不都合がなく、しかし先の世のことを知る者にしかわからないことを教えてやろうと──
そう言って、自分の着物の袖をまくって、腕を見せた」
腕?
俺はどんな話になるのかわからず、眉を寄せた。
「そこには──びっしりと、入れ墨で文字が彫り込んであった。
天正文禄慶長元和寛永正保慶安承応明暦万治寛文延宝天和貞享元禄宝永正徳……」
「暦の名か?」と、俺は言った。
「そうだ。男の青白い腕には、この国の元号が刻まれていた。
男が生きていたという、戦国の世の末期から今に至るまでの──
そして、これから数百年先の時代のものもな。
彼と会った時、男は、
もう間もなくまた暦が変わると言って、ボクに誰も知らない新しい暦の名と、それが変わる年を教えてくれて……」
「その通りに変わったってのかい!」
話を聞いていた遊水が、面白そうに声を上げた。
鬼之介は、「そうだ」と怯えた声で頷いた。
「それからボクは、何度かその場所に出かけて行って、男に会い、
先の世で人間が発明し扱えるようになるのだという数々の技術や装置、
今はまだ明らかにされていないこの世の仕組みなどを教えてもらった。
数年が経つうち、ボクは成長して大人になったが、男の姿はボクが出会った頃から全く変化せずに若いままだった」
「人魚の肉を食らって不老長寿になったという、八百比丘尼のような話だな」
鳥英がやはり怖がる様子もなくそう口にした。
語っている当の本人の鬼之介は恐怖に顔を引きつらせて、
「その男はな、自分はこの世界の時の流れに生じた『誤り』の中にいるのだと、
だからこのように亡者のような姿で時を彷徨っているのだと、そう語り──
──自分は果心居士という者だ、と名乗った」
と、締めくくった。
「その男は、お前がこの先この国の歴史にどう関わる人間かわからぬから、歴史的な重大な出来事や事件は教えてやれぬし、そのほうがお前のためだと言って──
ただ、知っていても何も不都合がなく、しかし先の世のことを知る者にしかわからないことを教えてやろうと──
そう言って、自分の着物の袖をまくって、腕を見せた」
腕?
俺はどんな話になるのかわからず、眉を寄せた。
「そこには──びっしりと、入れ墨で文字が彫り込んであった。
天正文禄慶長元和寛永正保慶安承応明暦万治寛文延宝天和貞享元禄宝永正徳……」
「暦の名か?」と、俺は言った。
「そうだ。男の青白い腕には、この国の元号が刻まれていた。
男が生きていたという、戦国の世の末期から今に至るまでの──
そして、これから数百年先の時代のものもな。
彼と会った時、男は、
もう間もなくまた暦が変わると言って、ボクに誰も知らない新しい暦の名と、それが変わる年を教えてくれて……」
「その通りに変わったってのかい!」
話を聞いていた遊水が、面白そうに声を上げた。
鬼之介は、「そうだ」と怯えた声で頷いた。
「それからボクは、何度かその場所に出かけて行って、男に会い、
先の世で人間が発明し扱えるようになるのだという数々の技術や装置、
今はまだ明らかにされていないこの世の仕組みなどを教えてもらった。
数年が経つうち、ボクは成長して大人になったが、男の姿はボクが出会った頃から全く変化せずに若いままだった」
「人魚の肉を食らって不老長寿になったという、八百比丘尼のような話だな」
鳥英がやはり怖がる様子もなくそう口にした。
語っている当の本人の鬼之介は恐怖に顔を引きつらせて、
「その男はな、自分はこの世界の時の流れに生じた『誤り』の中にいるのだと、
だからこのように亡者のような姿で時を彷徨っているのだと、そう語り──
──自分は果心居士という者だ、と名乗った」
と、締めくくった。