恋口の切りかた
私からの話の一つということになるかどうかはわからないが……と言って鳥英は、何やら蘭語で書かれた書物を持ち出して広げた。


「以前の鬼之介殿の話では、その謎の男から聞かされたということだったが──まあ、一応、この時代には存在しない未来の物質というワケではなさそうだね。

既に発見されているぞ。遊水からもらったこの本に記載があった」


「遊水から?」

俺は内心ギクリとしながら、鳥英の横に座っている彼を見た。


鳥英の奴、遊水に相談したのかよ。
まあ、詳細は何も知らない彼女の行動としては、予想できなくもない展開だったが……。

結局、廻り廻って彼のところに話が辿り着いて、彼が書物まで手配したとは。


目が合うと、遊水は無言でこちらを睨んだ。
彼女を巻き込みやがって、と言わんばかりの視線に、俺は首をすくめる。

「悪かったな、遊水」

小さく謝ると、遊水は不機嫌そうに鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


「それで、ここに書かれているfosfor。
これがおそらく鬼之介殿の言う、暗闇で光るという物質のことだ」

開いた書物の中の単語を白い指で示して、鳥英は言った。

「阿蘭陀(オランダ)の隣国の、独逸(ドイツ)でHening Brandなる錬金術師が発見して、独逸語ではphosphorと命名したのだそうだ。時期は寛文の頃だな」


「錬金術?」

耳慣れない言葉に冬馬が首を捻った。

「金を作り出そうとする試みに、不老長寿の霊薬だの何だの研究も混ざって……まあ、胡乱な部分はあるが、様々な物質を精製したり発見したりに一役買っている異国の学問だ」

俺が簡単に説明して、「よく知っているな」と鳥英が感心し、留玖がまた尊敬の眼差しを向けてくれたりして、


「何だよ、鬼之介。既に異国にはある知識じゃねェか。
先の世の知識なんかじゃなさそうだぜ?」

俺が笑うと、鳥英が複雑な表情を浮かべ「ふむ、それがな」と言った。

「ここからが奇異な話になるのだが、どうも簡単にそう片づけることはできなさそうなのだよ」
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