恋口の切りかた
「どういうことだ?」

「確かに、fosforという物質はある。
あるし、暗闇で青白く光を発するということで独逸の国中に知れ渡っているようだが……

書物には鬼之介殿がその男から聞かされたという、毒性に関する記載などはない。
しかもお前たちの話では、それが巷を騒がせている焼死事件に使われているということなのだろう?

この物質で何かを燃やすことができるなど──」

「知られていないのか?」

俺が尋ねると、鳥英はこくりと頷いた。

「そもそも、寛文の時代に発見されたばかりで、まだ物質としての歴史は浅いのだよ。
鬼之介殿が聞いた知識は……真実なのだとしたら、まさに先の世のものとしか思えんね」

きゅう、と腕が締めつけられて、見るとまた俺にしがみつく留玖の手に力がこもっていた。


「これが本当に巷の事件に使われているのだとしたら──案外、その犯人も会っていたりしてな」


鳥英は美しい顔に、にやっとした笑いを作った。


「鬼之介殿が出会ったという、不可思議な男に」


そう締めくくるかよ……。


俺は、あの時──そして今も鬼之介の顔に貼りついている怯えた表情の意味をようやく理解できた。

自分以外にもその男に会った者がいるとなれば、夢や幻とも片づけられなくなるわな。
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