揺れる、山茶花








甘い香りが、絶えることなく鼻を擽る。

これはきっと、掌に握り締めた枯れかけの花弁からじゃなくて、私の記憶にこびり付いたものなんだろう。

掌に収まる花弁が優しい。


あの優しい空気に、もう一度、触れてみたい、なんて。


あれだけ憂鬱としてた気分が、少しだけ、軽くなったから。


だから。



(駄目だってば。明日も面接が入ってる)

すっぽかす訳にはいかない。

もしかしたら、もしかしたら、明日の面接は、受かる、かも。


第一、明日行ったところであの赤鼻が居るとは限らない。

あぁ、違う。

赤鼻なんてどうでもいい。

ただ、あの山茶花に。












< 17 / 40 >

この作品をシェア

pagetop