揺れる、山茶花
甘い香りが、絶えることなく鼻を擽る。
これはきっと、掌に握り締めた枯れかけの花弁からじゃなくて、私の記憶にこびり付いたものなんだろう。
掌に収まる花弁が優しい。
あの優しい空気に、もう一度、触れてみたい、なんて。
あれだけ憂鬱としてた気分が、少しだけ、軽くなったから。
だから。
(駄目だってば。明日も面接が入ってる)
すっぽかす訳にはいかない。
もしかしたら、もしかしたら、明日の面接は、受かる、かも。
第一、明日行ったところであの赤鼻が居るとは限らない。
あぁ、違う。
赤鼻なんてどうでもいい。
ただ、あの山茶花に。