キョムソーヤの茶番世界
第5章
太陽も沈みあたりは街頭に照らされ夜の町らしくテールランプの光線が走っていった。
俺はこのままどうなるものかと考えていた。

紛れもなく死んでいる。
俺は死んでいる。
俺はそう思っていた。
なんて酷いんだ。
死んで肉体を失いながらもなお、意識が生きている。

それも蝉の亡骸とともにしたまま。

俺がすべてを拒絶するよう俯き伏せているところに一匹のどら猫が俺のそばに寄ってきた。
どうやら目の開かぬ盲目の猫らしい。
そいつは匂いで分かるのか、どら猫が蝉の亡骸を鼻を押しつけ嗅いでいる。

「ほう、まだ残っていたか。」盲目の猫が俺を見て言った。

「あんた俺がわかるのかい?俺の意識が見えるのかい?」

「それが俺様の仕事だからな。俺様はタルタロス。死骸漁りの死の番人さ。お前みたいな奴を見つけては俺様が喰ってあの世に送るのさ。俺様はもう何百年もお前みたいな蝉の骸だけを漁っている。お前は自分を不思議がっているかもしれんが以外と多いんだぜ、お前みたいなやつ。夏のうちに真っ向から鳴いて、鳴いて、鳴いて、死んだことすら気が付かずにいる蝉はよ。」

「待てよ、俺は人間だったんだ。それが今日突然蝉になっていたんだ。何か知っていたら教えてくれ、何百年と漁ってきただろ俺みたいなやつもいただろ。なぁ、なんでもいいから教えてくれよ。」
< 6 / 8 >

この作品をシェア

pagetop