キョムソーヤの茶番世界
俺は盲目の猫に懇願した。

まるで哀れみを買うように・・・

盲目の猫はニタァとした意地悪そうな目つきをしていった。

「そんなの俺には関係ない。人間だったならば、人間らしい理屈でも考えればいい。俺様には関係のないことだ。それより、いいか俺様は腹を透かしてるんだ。お前ごときに構ってはいられない。さっさとその減らず口を閉じて俺様の腹のなかに入りやがれ!」

盲目の猫は見えない目を鋭く見開き大きな口を上げて蝉の亡骸をひと噛みした。

犬歯が蝉の亡骸に食い込んで胴体がまっぷたつに裂けた。

俺の意識が一瞬飛んだ。
これが本当の死というものだろうか、意識が一気に遠のいていくようだった。

しかし、俺の微かな意識がまだ蝉の亡骸にまとわり付いていた。
盲目の猫が食い散らして俺の存在を消すのだな。

俺はそう直感した。

こうなれば成すがままだと、高をくくったところで俺ののなかから悔悟が溢れだし、人生の走馬灯が走った。
俺は盲目の猫にこういった。

「タルタロスよ、最後のひと噛みの前に俺に僅かな時間をくれ、このままじゃ死に切れない。お前のいうように俺は最後に人間らしく理屈を自分に与えたい。もちろん、長い時間じゃない。ほら、あそこにも蝉の死骸があるだろう。あの死骸からお前の腹に収めればいい。こんな姿じゃ、逃げようにも逃げれない。すでに俺は虫の息だ。順番を変えるだけだ、そのぐらいの紳士な面もお前は持っているのだろう。」

俺はおだてるように盲目の猫に言った。
盲目の猫は鼻をヒクヒクと動かし向き直り、1mぐらい先にある蝉の死骸のほうへと歩いて行った。

その途中で盲目の猫が俺の方を振り返りこう言った。

「お前は俺様の獲物だ。お前の屈辱はなんとも美味たるものだ。せいぜい、自分の様を哀れみ、もがくがいい。そういう蝉のほうが旨いからなっ。」
< 7 / 8 >

この作品をシェア

pagetop