蛙の腹
第1章 蛙の腹
“蛙が抱きついて離れない”

僕は目を覚ました。
右手を天井にかざして確認する。

「大丈夫だ、虫にはなっていない。」

時計を見る。
9時だった。
一瞬気持ちがたじろいだがすぐに気を取り戻した。

「そうだった。今日は会社に行かなくてもいい。」

ライターを探して煙草に火をつける。
紫煙の揺らめきを目で追いながらゆっくり吸う。

財布のなかを確認する。
千円札が9枚と小銭が六百円分。

携帯電話の着信を確認してPCの電源を入れた。
それから今日の1日を少し想う。

大したことはない。もう何年も生きてれば、自分の程度は知れている。
自分がどんなことを思い、どんな考え方をするのか、程度は知れているということだ。
こういった自分の生き方に最小のパターンがあるということだ。

顔を洗おうかと思ったが、少し待った。
DVDレコーダーの電源が3日間付けっぱなしになっている。
その電源を落とした。それから、風呂に入る。

何か新しい発見でもあればいいが・・・そんな期待を水浴びに。
何のことはない、ただの水浴びだ。
シャワーから飛び出した水のシャワーを体に沿わす。
水が下るに皮を剥ぐわけでもない。
皮膚を白に変えるわけでもない。
身も心もすべてを純粋にするため穢れを洗い流している。
排水溝が詰まって部屋に魚が泳ぎだすわけでもない。

シャワーを浴びたあと、窓を開けて外の光を見た。
そしてベランダにある洗濯機に水を溜めた。
空は青い、屋根はそのまま動かない。鳥の影が遠くに見える。
視覚が途絶える。切れて目を離した。

空に鳥が1、2、2匹。どのぐらいの鳥が空を一斉に飛んでいれば自然を感じるだろう。
不思議なことを思う。
そのままじっと洗濯機が回転しているのを見つめて、水泡がおかしいように流れに踊るのを見て心地良くなる。

煙草を吸いたいと思った。

外を眺める世界は静かにして何事もないかのように動作を感じさせない
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