絶愛
「お先に失礼します。」

私は、定時より少しオーバー気味で、黒いブーツのファスナーを上げていた。

「ねね。美沙ちゃん途中まで帰ろう?」

「いいよ。」


黒髪のふわふわの癖っ毛を、耳にかけながら、子猫のような細い目をした、同僚の、のぞみが声をかけてきた。


「しかし。美沙ちゃんって髪長いよね。」

「そう?」


「腰近くまであるし、美人だし」



「そんなことないよ。」


「それに、優しいしね。」


「それ、ほめすぎだって(笑)」




ここの会社に入社して、半月がたつ。

飲食の世界の中でも、和食の世界に飛び込んで一番先に仲良くなったのは、同い年の、のぞみだった。

時間を見つけてはちょこちょこ、こんなふうに、途中までごく自然に帰る事が多くなっていた。


「本当ここからの夜景って綺麗だよね。」

そう言ってはいつも、のぞみは、ビルの最上階にあるこの店舗から望む、札幌駅前の夜景に目を奪われては足を止めていた。


実際、宝石箱をひっくり返したようにネオンがちりばめられていて、私もすごく気に入っていたんだ。





< 2 / 63 >

この作品をシェア

pagetop