キャンディ
ケビンははらはらと静かに涙を落とした。

ケビンのその中性的な美しい顔立ちが少し哀しくゆがんでいる。

「さくら、僕はね、あのハーバーでの撮影のとき思ったんだ。
どの道、僕の愛した人たちのうち、誰かが僕のせいで死んでしまうのなら、僕が死のう。そう思ってしまったんだ。
僕が人を愛せた経験なんて、今までほんとちっぽけな数だけなんだもの。
そのちっぽけな数の愛しい人たちすら、僕は守ってやれない…。
その時の僕はどうかしてたんだ。
そんなことして、たとえ関係のない弟が助かったとしても、やっぱりやつ等は君をほおっては置かない。
ねぇ、さくら、どうか思い出そうと努力してみてはくれないか?
そしてやつらより先に『キャンディ』をみつけて、直接警察かFBIへ通報するんだ。
僕等が生き延びる道はそれしかない。」

ルイはケビンにもう少しのところで、

「もう私はさくらじゃないの、るいなの。」

と記憶を取り戻したことを伝えるつもりだったが、思い留まった。

もしメイソン刑事が言うとおり、ケビンがずっと嘘をついていたら?

ルイは思った。

― どうしてケビンを信じられないのだろう。

ケビンを信じられない自分自身がルイには信じられなかった。

そしてそんなときほど亮介を恋しく、懐かしく感じる、記憶を取り戻した新しい自分が許せなかった。

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