キャンディ
そこへ、急に病室のドアが荒々しく開いた。

イーサンとその仲間だ。

きっとケビンがつけられていたんだ。

イーサンはケビンに銃口を向けて、ルイに言った。

「サム-シンがお怒りだぜ、アクター。あんまり遅いってね。とろこで、この女、本当はもう思い出しているんだろう、言えよ。でなければこのアクターの男前なお顔に風穴が開いちゃうよ。」

ルイはあわてて筆談用の紙とペンを探したが、ペンがいつもの場所に見つからない。

「待ってくれっ!彼女は長い間ショックでしゃべれないから筆談が必要なんだ!」

ケビンがルイにしゃべる機会を与えようとしている。

拳銃を突きつけられて動けないケビンがいった。

「ルイ、ペンは枕の横に転がってるよ。」

ルイはケビンに言われたとおり、迷うことなく転がっていたペンをとった。

そして紙に文字を書こうとした次の瞬間、ケビンがイーサンの持つピストルの先頭を持って、ゆっくりと顔から放した。

彼のその表情には、ずっと追いかけていた蝶々をやっとの思いで捕まえた少年のような微笑があった。

ルイの体が凍りついた。

「さくら、ごめんね…。」

ケビンが言った。

「やっぱり弟が殺されるのは困るんだ。」

悪びれた風もなく、淡々と物を言うケビンが、ルイには信じられなかった。
唖然となった。
もう涙すら流れない…。

足の悪いイーサンがまた嫌な笑い方をした。

「さぁ、コンテナのある場所へ行こう。」

抵抗する気配もないルイの体を、ケビンが軽々と抱き上げた。

そしてドアの外の倒れた警官の横をぬって、エレベータにのり、地下の駐車場から、あの時のバンに全員で乗り込んだ。

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