グリンダムの王族
ファラントへの旅立ちの日、空は綺麗に晴れていた。

セシルの乗る立派な馬車が城の前庭に用意され、同行する騎士達も準備を終えている。
彼女を見送るため、少し離れた場所には城で働く者達が集まり人だかりを作っていた。

前庭に姿を見せたセシル姫はその髪を綺麗に結い、金の刺繍の施された純白の婚礼衣装に身を包んでいた。

日の光の下、セシルの姿は輝くばかりに美しく見えた。

「化けたなぁ」

見送りに出てきているカインが妹の姿に思わず呟いた。
隣でラルフもふっと微笑む。

「見違えた。つい最近まで鼻を垂らしていた子とは思えない」

「つい最近まで垂らしてたわけないでしょ」

セシルがラルフを睨む。カインが楽しそうに笑った。
ラルフは不意に自分の首の後ろに両手を回すと、その首からそっと首飾りを取り外した。

セシルがちょっと眉を上げる。金色の首飾り。
それは以前ラルフがリズから取り上げた、ファラント王家の紋章だった。

ラルフは目を丸くして自分を見る妹の首に、その首飾りをそっと着けた。

セシルの胸元で、ファラントの紋章が光を放っている。
セシルの目はじっとラルフを見ていた。

「ファラントのことは任せた」

ラルフの言葉に、セシルは思わず吹き出した。

「王妃になるわけじゃないわよ」

「いずれは王妃になる」

セシルは何も応えずにラルフを見ている。そ
してその目をカインに向け、「じゃぁね」と言った。

「クリス王子によろしく」

カインの言葉にセシルは苦笑すると、2人にゆっくり背を向けた。
セシルは兄達と見送りの者達が見守る中、馬車へと歩いていった。
その目は一度も騎士達の方へは向けられなかった。

遠くで馬車に乗るセシルを、アランはただじっと見送った。

「お前は同行しないのか」

隣でギルバードが声をかけたが、アランには届かなかった。

彼は何も答えず、ただ去っていく美しい姫君を見つめていた。


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