グリンダムの王族
先に準備を終えたクリスは前庭に停めた馬車に乗って待っていた。

セシルが来ると思うと緊張で落ち着かない。
彼女の前でバカみたいに泣いて以来初めて会うので、なんだか気まずかった。

やがて馬車の扉がカチリと開けられる音が聞こえた。
思わずびくっと体を震わせる。

馬車の扉は騎士の手によってゆっくりと開かれた。

着飾って現れたセシルに、クリスは息を呑んだ。

綺麗に結い上げられた髪。
体を覆う緋色のドレス。開いた胸元を飾る美しい首飾り。
いつもながら、あまりの変貌に驚かされる。
それは普段の彼女の格好からは、かけ離れていた。

視線に気付いてか、セシルの目がふとクリスを見る。
クリスは慌てて顔を背けた。

セシルが隣に座ったのを感じながら、まともに顔が見れない。
馬車の扉は再び閉じられ、やがてゆっくりと動き出した。

いつものように黙ったままのクリスに、セシルは何も言わなかった。
体に伝わる振動を感じながら、ぼんやりその身を柔らかい背もたれに預ける。

緩くしてもらったはずのコルセットは、慣れないせいかやはり苦しかった。
ふと隣からの視線を感じて、セシルはそちらを見た。その目がクリスと出会う。

その瞬間、クリスは弾かれたようにまた前を向いた。
セシルも不思議顔で視線を戻す。

相変わらずクリスの行動はセシルにとって理解不能だった。

「その格好、、、」

不意にクリスが呟いた。「似合わない」

いつもの憎まれ口にセシルは苦笑すると、「すみませんね」と返した。

「いつもの格好のほうがお前らしくていい、、、」

クリスが前を向いたままそう呟く。セシルは思わず目を丸くした。

「あ、そう、、、」

褒めたいのか、けなしたいのか分からない。

クリスはそれ以上何も言わずに黙って馬車に揺られていた。

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