グリンダムの王族

優しいキス

翌日、ファラントの王子夫婦は国へ戻ることとなった。
リズはまたお妃教育を中断して見送りに駆けつけた。
前庭では準備を整えたセシルが、兄2人と談笑している。

そんな兄妹達の姿をクリスは一歩さがったところで黙って見ていた。

リズが来たことにセシルが気付き、にっこり微笑んでくれる。ラルフとカインも妹の視線を追うように振り返った。

国王の存在に緊張しつつ、リズはカインの背中に隠れるように一歩後ろに立つ。
セシルはそんなリズに微笑みかけると、「リズも元気そうで安心したわ」と言った。

「、、、有難うございます」

リズは嬉しそうに微笑んだ。「セシル様のおかげです」

セシルとカインが同時に目を丸くする。

「私なの?」

「、、、俺だろ?」

振り返ったカインの問いかけにリズが慌てて「あ、はい、すみません」と返す。セシルは楽しそうに笑っていた。

そんな曇りのない笑顔を、クリスはただぼんやりと眺めていた。
やがて話を終えたセシルがクリスを振り返る。

「行きましょうか」

声をかけられ、クリスはハッとしたように我に返った。

「、、、うん」

「また近いうちに」

ラルフが言った。セシルは苦笑すると、「近いうちは、いやだわ」と返す。
カインがそれを聞いてちょっと笑った。

セシルは去り際その目をリズに向けた。
リズは暖かい微笑みを浮かべて、「お元気で」と言った。

「あなたもね」

セシルはそう言って改めて兄達に別れを言うと、クリスと供に馬車へと向かって歩き出した。

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