グリンダムの王族
後宮の部屋に戻され1人になったリズは、寝台にうつぶせに横たわって泣いていた。
ただ悲しくて、苦しくて、涙を流すしかなかった。

クリスはファラントの王族だった。
彼の言っていた結婚とは、グリンダムとの同盟のための結婚だったのだ。
そんなこととは知らず、簡単に”断わっていいと思う”などと言い、
”両親に話せば分かってくれる”などと無責任なことを言った。

なんて愚かだったのだろうと思う。

初めから、恋しても仕方の無い相手だった。
彼は自分のために、婚姻による同盟を取りやめにしようとまで考えたのだろう。
自分のようなただの平民のために、、、。

不意に人の気配を感じ、リズは顔をあげて振り返った。
侍女が入ってきたようだった。
リズの姿を見つけると、「リズ様」と声をかけてきた。

「カイン様がお見えです」

「カイン様、、、?」

侍女は、「ラルフ王の弟君です」と説明した。
そして、「お通ししますので、どうぞご用意ください」と言って頭を下げた。

”用意”の意味が分からなかった。
なぜラルフの後宮に王弟が現れるのだろうか。

侍女はリズの困惑をよそに、いそいそとカインを迎えに行った。
リズは体を起こして、ただ侍女の去った後を見ていた。
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