男子、恋をする
「おーい。寿梨(じゅり)ー」
開きかけの扉の向こうから、パタパタという足音とよく響く声が聞こえてくる。
それを聞いたダサ子は、
「わたし、誰にも言いません! それじゃあっ」
また泣きそうな顔になって、訴えるような声で俺に言って扉から出て行ってしまった。
「あっ! 寿梨。忘れ物あった?」
「……うん」
去り際に見せた顔には、さっき一瞬だけ浮かべた神様からの贈り物は……微塵も残っていなかった。
扉越しに聞こえた声で、ダサ子の名前が寿梨であることが頭の中に記憶される。
「地味だったけど、笑った顔可愛いかったね。見た?」
「……さぁ」
もう関わるコトも無い女子だ。
記憶された所で意味なんて無い。
「えー。せっかく澪斗きゅんの脱バージンの相手なのにつれないなー」
「阿呆チビ」
「チビ関係ねーしっ!」
溜め息と同時に那津の頭をゲンコツで小突いた。
今後一切。
あの寿梨とかいう女子には関わらない。
音楽室を出て数メートル行けば、また女子たちの黄色い声が上がる。
お得意の愛想笑いの影に、さっきの出来事が沈んで消えていった。