想うのはあなたひとり―彼岸花―



楽しみにしていたクリスマスも、簡単に過ぎていった。
奈月の事件は新聞やニュースに載っていたが二、三日過ぎるとまた違うニュースとなり世間は一瞬騒ぎ、一瞬にして元に戻った。


でも俺は忘れることはなかった。
奈月の生ぬるい体や、唇の触感、犯人の不気味な笑みが頭から離れることはなかった。
そしてデジカメに入っていたロッカーらしき鍵もそのまま。
どこのロッカーの鍵なのかも分からない。
ただ分かるのは鍵に書いてあったS町NO7のみ。


S町は隣の街だ。
でも行ってみようとも思わない。
もしこのロッカーに何が眠っていたとしても、奈月を忘れるくらいなら開けたくない。


このロッカーの鍵は今でも持っている。
俺は三学期から学校へは行かなくなった。
奈月のいない学校へなんて行きたくもない。



そしてそのまま春になり、俺の転校が決まった。
理由は母親の仕事の都合。


丁度良かったかもしれない。
変わった土地で奈月を想っていよう。





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