蝉時雨
透さんにお願いされた事。

それは透さんの言葉を真夏さんに伝えて欲しいという事だった。



“‥‥唄さん、僕を信じてくれますか?”

“え?はい。何ですか?!”

“僕は貴方にしか見えていない。”


一瞬、意味が解らなかった。目の前にいる透さんの口からこぼれた言葉の意味が、理解できなかった。


“僕は、あの日…あの約束の日‥‥‥別れを告げに行く途中で、車にひかれて死にました。…信じられませんか?”


それでもゆっくりと説明してくれる透さん。


“…でも、私は透さんに”


そう言いながら私は透の手に触れた。確かに、温もりも感触もここに貴方がいることを教えてくれるのに‥‥


“ほら、触れられる。‥‥だけど、透さんがそんな嘘を付くとはどうしても思えないんです…。”


そこまで言い終わるともうダメだった。全てを理解して受け入れるしか私には出来なかった。


“…嘘じゃないんでしょう?私は透さんを信じます。”

“ありがとうございます。”


何故私にしか見えないのか解らないけれど、私にしか出来ないことだから…透さんの言葉を真夏さんに伝えるんだ。
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