蝉時雨
そのままの状態で吉田が私に聞いた。


「……迷惑…か?」


吉田の手が置かれた肩がじんわり温かい…


「ぁ…私は……」


――ザーッ


「うわっ!!」
『きゃっ!!』


急な夕立で私の言葉はかき消された…

私…吉田に何て言おうとしたんだろう


「ちょっ…中入ろうぜ?」

「……」


聞こえない…


蝉の声がやんだ…

さっきまで、煩わしかったのにな…



「唄??」

「…私ね、17年間恋なんて必要ないって思ってた。」

「うん…」

「意味が分からなかった…好きだとか愛してるだとか疎ましいだけだった。」

「うん…」

「蝉はさ、ずっとそんな甘い言葉を囁いてるんだって考えたら煩わしくて…」


吉田はただ“うん、うん”って聞いてくれてて…


「でもね、彼がいたら心地よかった。何でかな…」

「っ唄…お前泣いて……」


なんでだろう…涙がでるのは…


「好きな奴いるんだな…」

「……」


わからないって言うのはずるいのかな…

夕立に消えた蝉の声


「…それでも俺は……唄が好きだから…」


そう言った吉田も泣いているように見えた…

吉田の想いは夕立のように、突然私に降り注いだ。
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