昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜


「…あんなイカレポンチもう知らん」


とりあえず、さくらちゃんとまさるくんの間に。

まさるくんと優子の間に。


…何かはあったらしかった。


帰りの車内には、優子とさくらちゃんと俺の三人だけ。

運転席でハンドルを回しながら、ミラーに映る後部座席の二人を見る。


そこにはいつもの三割増しはしゃいで、さくらちゃんに話しかける優子の姿があった。

さくらちゃんは元気がないながらも優子につられて自然と笑顔になっとる。


「…でもよかったんかなぁ」

「なに言うとんさくらちゃん!!かっちゃんみたいなアホ、一人で電車で帰って当然やわ。…いっそ三輪車に乗って帰ればええんや」

「三輪車は可哀想やろ」


…あ、思わずツッコんでしもた。


優子は昨日、思いっきり泣いてちょっと吹っ切れたみたいやった。

そして思い立ったようにまさるくんの荷物ひっつかんで。

部屋から放り出して、靴も放り投げて。


怒りまかせに、バシィッ!と効果音付きで貼り紙をはりつけた優子。




『電車で帰れ』




…強いわ。そこまでやるってよっぽどキレてるわ優子。

ちょっと気の毒ちゃうの、て思たけど、俺はその原因を知らんわけやし。


何があったか、聞けんかった。


聞ける状態じゃなかったっていうのもあるし、もうひとつの理由は、俺が、怖かったからかもしれへん。


…だってどんな理由であれ、その根本にはまさるくんが好きって気持ちがあるやんか。


一泊二日で予約したレンタカー。久しぶりに握るハンドルにやっと余裕が出てきて、窓の外を見る。

流れる風情ある景色。結局京都らしいことってお寺行ったくらいやないの。


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