昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜
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『…好きや』



…一体、何が起こったっていうの。


床にへばりついたままのお尻。ポカーンと口あけたまま、しばらく動かれへんかった。


好きやって。…誰が?

風間が。…ウチを?

有り得へん。わからへん。だって風間とウチは友達やん。

それ以前に"ウチ"やで?

「男にしか見えへん」

「男より男前」

「優子みたいな彼氏ほしいわ」

…今まで散々そんなこと言われ続けてきたウチやで?


部屋の蛍光灯の光に撫でるように触れられ、カレーの表面がテラテラ光る。

ほとんど消えかかった湯気が、頼りなげに存在を薄くして舞い上がる。


出直してくるわって言われたけど。

そんなん出直されてもウチどうしたらええの。


わーもうよー頭回らへん。…頭真っ白ってこういうことかいな…



──ピーンポーン。



玄関のチャイムの音。ビクッと肩が震えた。


え…、風間…?出直すん早ない…!?

どうしようどうしよう、忘れもんしたわけじゃないよな!?


部屋ん中を見渡すけど、去ったばかりのリュック以外に風間の持ち物は見当たらん。


どうしよう。けどとりあえずドア開けな。
嘘バレバレの居留守つこおてどうすんの。


おそるおそるドアに近づき、ドアノブを回す。

どうしよう、どんなノリで顔合わせたらええの。ここは明るく行っとく?テンション上げるしかないよな?それしかないよなぁ!?


「…おっ、おかえりぃ!!」


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