やさしい声【短編】





拓真は
基本 とても真面目なんだと思う



今でも律儀に



ふたり一緒に入るベッド



私が眠るまで
他愛ない話を拓真は続け



深い眠りに落ちる間際


時々「寝たかな………」って
優しい大好きな声が聞こえる













「結婚しようよ」




特別な日でもないのに


ちょっといいホテルの最上階のレストランで食事をしようと拓真に誘われて




もったいないなぁ
このお金があれば、3日はもつ
とその食事の値段を見て思った帰り道




酔い冷ましに
まぁるい目玉焼きみたいな満月が明るいアパートの近くの河辺を歩いてる時だった




「真琴、結婚しよう

付き合ってもう1年になるし

オレも真琴も もう25だし

そろそろ……」




結婚なんて人生の一大事を「そろそろ」なんて言葉を使っちゃう



拓真が本当に大好きだけど




「ごめんね。
少し考えさせて」




言ってから「ごめんね」って言葉は余計だったかなと思う




後ろ向きな私の気持ちが全面に出た言葉だった




「わかった」



短くうなずいた拓真の肩が少し下がって見えた





< 4 / 11 >

この作品をシェア

pagetop