やさしい声【短編】




「私、昔、耳が聞こえない時期があったの」




私の告白に拓真は目を見開いた



「え?でも今は普通だよね?」



私は少し笑ってうなずいて



あの時に
自分の意識が戻って行く



「小学4年生の時だった


私には6歳上の姉がいて

姉は美人で頭も良くて
両親の自慢で……………
高校も偏差値高くて有名な学校に進学してね

だけど、その頃からゆっくり
本当にゆっくり
何かが狂い始めて」


いつもの逆で


私の話を
拓真が耳を澄ませて聞いている



気持ちを落ち着かせるため
胸に手を置いた


呼吸する度に
手も一緒に上下する



「姉は小 中と今まで、ずっと1番だったけど高校には やっぱり上には上がいて

なかなか成績が伸びなくて

ストレスで夜に遊び歩いて帰って来なくなった

そのうち、どこの誰だか知らない男と子供が出来ましたって

本当にどっかに消えちゃって


残されたのは、ぼろぼろに やつれた母と家庭から目を背けるようになった父

そして何をしても平均点な私」



「お姉さんは…今」


拓真が訊いてきて



「3年で子供連れて帰ってきた」



「そっか」呟いた拓真の横顔を見てから


天井に視線をうつした



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